米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は3月11日、米司法省(DOJ)がイランによるバイナンスを通じた対米制裁回避疑惑の捜査に着手したと報じた。
社内文書および事情に詳しい複数の関係者の証言をもとにした報道で、DOJ当局者はすでにイラン関連取引の情報を持つ人物へのヒアリングや証拠収集を進めているとされる。
問題の焦点となるのは、10億ドル超の仮想通貨がバイナンス上でイラン支援テロ組織の資金ネットワークに流れたとされる一連の取引だ。WSJの2月報道によれば、中国系クライアントから17億ドル相当のデジタル資産が流出し、うち10億ドル以上は香港拠点の決済会社「ブレスト・トラスト」を経由してイランの代理組織、イエメンのフーシ派などに送られたとされる。
バイナンスは2023年、マネーロンダリング防止法および制裁関連法に違反したとして43億ドルの制裁金を支払い、米当局の監視下で事業を継続することで合意した。創業者チャンポン・ジャオ(CZ氏)も関連罪状で有罪を認め、4カ月の禁固刑を経た後、昨年10月にトランプ大統領による恩赦を受けた。今回の捜査はその後のバイナンスに再び法的な火種をもたらした格好だ。
捜査の直接的な契機となったのは、バイナンス社内の内部調査打ち切りと報じられている。同社は昨年11月、イラン関連取引を報告した調査員を停職処分にしたとWSJは報じており、これが再び議会や当局の注目を惹きつけることになった。
財務省が設置したコンプライアンス監視官も同時期にイラン取引の詳細提供を要請したという。
上院では民主党のブルーメンタール上院議員らが2月、DOJと財務省に対し正式な調査を求める書簡を送付。同議員は「20億ドル近くが制裁対象に流れるまで検知されなかったことは、コンプライアンス体制への深刻な疑問を提起する」と指摘した。
バイナンスは書面で反論したが、議員側は「回答は回避的だ」として懸念を維持している。
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一方で、バイナンスは同日、WSJの2月の報道が「虚偽かつ名誉毀損にあたる」として、親会社のダウ・ジョーンズを米ニューヨーク南部地区連邦地裁に提訴したと発表した。
同社グローバル訴訟責任者のデュガン・ブリス氏は、「本訴訟はWSJに報道倫理よりもトラフィックを優先したことへの責任を取らせるためだ」と声明で述べた。これに先立ちバイナンスCEOのリチャード・テン氏は2月24日にもWSJの編集長宛の書簡をXで公開し、記事の即時削除と訂正を求めていたが、要求は受け入れられなかったという。
バイナンスは「制裁対象との直接取引は一切ない」と全面否定し、内部調査の結果、イラン革命防衛隊(IRGC)に関連するウォレットへの流入は2,400万ドルにとどまると主張。また、疑惑のある口座を既に閉鎖済みとし、「当局と連携した最善のコンプライアンス体制を維持している」と説明した。
訴状の中でバイナンスは、WSJの報道が政府当局による「不当な調査」を引き起こしたと主張し、コンプライアンス体制への風評被害を強調した。
DOJがバイナンス本体を捜査対象としているのか、それともユーザーに限定した捜査なのかは現時点で不明だ。2023年の合意に基づく監視体制は2029年まで継続予定であり、コンプライアンス履行状況と今後のDOJの動向が注目される。
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