一般社団法人日本STO協会(JSTOA)が20日に開催したセキュリティトークン(ST)制度開始5周年イベントで、Web3領域の事業者・専門家がST市場の次の成長条件を議論した。
登壇者は以下の通り。
現状の課題として真っ先に挙がったのが、日本の縦割りライセンス体系だ。暗号資産は交換業、STは第一種金商業、ステーブルコインは電子決済手段等取引業と、同じトークン技術を使いながら法令ごとにライセンスが分かれている。近藤氏は「スーパーアプリで一つのアプリで全部扱えたら理想だが、制度的にはそうなっていない」と述べた。
保木氏もこの問題を掘り下げた。パブリックチェーンをベースとするのであれば、顧客がアンホステッドウォレットでステーブルコインを保有し、DeFiを介してスワップでSTを取得する。そうした世界の実現が目標だと述べたうえで、既存法制ベースの規制ではなくトークンベースでの制度設計が必要だと主張。この課題は日本に限らずグローバル共通だとの認識を示した。現状ではアンホステッドウォレットでST・ステーブルコイン・暗号資産を一元的に扱おうとすれば3つのライセンスが必要になるとも指摘した。
その具体的な解決策として保木氏は、金融機関がKYC(本人確認)済みのアドレスにフラグを付与し、そのアドレス間でのみトークンの移転やDeFi取引を可能にする実証実験に取り組んでいることを紹介した。
フラグの付与ルールは金融機関間で統一し、野村・MUFG・SBI VCといった異なる事業者がKYCした顧客同士でもシームレスにトークンを移転できる設計を目指す。パブリックチェーンの世界に金融機関が必ず関与する環境を作り、規制されたトークンが顧客間で転々流通できる仕組みを整えるという構想だ。
「伝統的金融の現物市場の潜在規模を考えれば、いずれKYC済みの世界が既存インフラを置き換える可能性がある」と展望を語った。
加藤氏と吉田氏はともに、AIエージェントとSTの融合が次の5年の最大のテーマになるとの認識を示した。加藤氏はERC-8004などの規格を通じてAIエージェント同士がオンチェーンで金融取引を自動執行する実装がすでに始まっていることを紹介。AIエージェント自体をNFT化して売買できる世界観にも言及した。
吉田氏は、現在の伝統的金融では、STを担保に借り入れて暗号資産を購入しようとしても、証券口座・銀行口座・交換所をそれぞれ操作する必要がある。証券口座はAI向けのAPIを開放しておらず、銀行も資金移動のAPIは非公開、交換所は二要素認証が必須でAIには対応できない。
一方、株式がSTに、日本円がステーブルコインになり全てウォレット内に収まれば、AIが担保設定から借入・スワップまでを自動執行でき、「人間はAIをインターフェースとするだけで金融取引が完結する」と述べた。
北米ではこうしたAIによるウォレット操作の実証・一部実用化がすでに進んでいる。日本ではライセンスの分断と既存金融機関のデジタル接続の遅れにより実現の見通しが立っておらず、「人間が手動で取引する市場との差は急速に広がる」と警鐘を鳴らした。
こうした課題を踏まえ吉田氏は、AIを活用して複数のデジタルアセットを一元的に管理・取引できる「デジタルアセットサービス仲介業」のような新たなライセンス体系の創設を提言。加藤氏もこれに賛同し、「こういう発想を日本にもインストールしていくべきだ」と述べた。
吉田氏はまた、ステーブルコインによるSTの購入や利払い、STに紐づく優待券のトークン化といった領域は、現状でもウォレットで対応できる範囲だと指摘。金融機関が早い段階からこうしたトライアルを重ね、ウォレットでデジタルアセットを扱う知見を蓄積しなければ北米との差は広がる一方だと述べ、「半年から1年以内に日本初の事例を出したい」と意欲を示した。
加藤氏は「グローバルとの差分を埋める具体策を考えるべきだ」として、2つの課題を挙げた。第一に原資産の問題だ。日本のST発行残高約5,000億円はグローバルRWA市場約250〜260億ドル(ステーブルコイン除く)の約1割と健闘しているが、性質は大きく異なる。
グローバルではプライベートクレジット(約6割)や短期米国債(約25%)など回転の速い資産が中心なのに対し、日本は不動産・社債が大半で流動性が低く、この差がリクイディティの格差に直結していると分析。「日本にもノンバンクやリース、売掛金などの資産は充実しているが、トークン化前提の設計になっていない」と指摘し、こうした資産のST化を政策的に開拓すべきだと提言した。
第二に決済の問題だ。日本のST取引はT+2の銀行送金に依存しアトミックセトルメント(即時決済)が実現できておらず、ステーブルコインやトークン化預金の浸透が不可欠だと述べた。
保木氏は、株式がトークン化されれば個人の志向に応じたポートフォリオをAIが自動構築でき、画一的な投資信託を大量販売するビジネスモデル自体が変わらざるを得ないと指摘。「技術的にはすでに可能で、法規制が整った後はイノベーションのジレンマとの戦いになる」と、業界全体に変革の覚悟を促した。
近藤氏は今後5年の展望として、株式のトークン化が進めば株式トークンが証券口座ではなくウォレットに保管されるケースが出てくると指摘。ウォレットに株式トークンがある場合、保有者の銀行口座を把握できないため、配当も必然的にウォレット上でステーブルコインとして支払われる時代になるとの見方を示した。
成本弁護士は総括として、海外との最大の差は今まではステーブルコインの不在にあったと振り返り、STをきっかけに配当や優待のステーブルコイン払いから段階的に広げていくことが現実的だと述べた。デジタル地方債の法改正が今春予定されていることにも触れ、「STは小学校に上がったばかり。これからの5年で大きく成長するはずだ」と締めくくった。


