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約50億ドルのビットコインが被害者に返らず国庫へ?──中国の投資詐欺をめぐる所有権裁判

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2018年、英国警察は中国の大規模な投資詐欺事件に関連して、約61,000BTCを押収しました。現在、中国の被害者の一部がこのビットコイン(BTC)への権利を主張する一方、英国の検察当局も犯罪収益として回収する手続きを進めており、その行方をめぐって裁判が続いています。

2026年10月12日、英国高等裁判所は、この裁判で一つの判断を下しました。中国の被害者が「押収されたBTCにも自分たちの権利がある」と主張していることについて、その権利を英国の法律ではなく、中国の法律に基づいて判断すると決めたのです。

翌13日、英紙Financial Timesはこの判決によって英国政府が約38億ポンド(約50億ドル)相当のBTCを保持する可能性が高まったと報じました。
そもそも、このBTCは2014〜2017年に中国で行われた投資詐欺で集められた資金の一部が、加害者によってBTCに交換されたものです。被害者が支払ったのは人民元であり、BTCを直接購入したわけではありません。そのため、押収されたBTCにも被害者の権利が及ぶのかが争われています。

今回の判決で、BTCが英国政府のものになると決まったわけではありませんが、被害者の権利がどこまで認められるかによって、BTCの返還や英国側に残る資産の範囲が変わる可能性があります。

中国の投資詐欺資金の一部が、BTCへ

この事件の中心人物は、中国人の銭志敏(Zhimin Qian)です。英国検察局(CPS)によると、銭志敏は2014〜2017年に中国で大規模な投資詐欺を行い、新たな出資者から集めたお金を以前の出資者への支払いに充てる「ポンジ・スキーム」を運営していました。被害者は12万8,000人以上、損失額は約8億ドルに上ったとされています。

銭志敏は詐欺で得た資金のうち約2,700万ドル相当をBTCに換え、2017年に中国を離れました。英国では高額な不動産を購入しようとしましたが、資金の出所を説明できず、購入には至りませんでした。ロンドン警視庁は2018年に捜査を開始し、約61,000BTCを押収。2025年11月には英国の裁判所が銭志敏に対し、犯罪収益の保有などの罪で懲役11年8カ月を言い渡しました。

しかし、銭志敏の刑罰が決まっても、押収されたBTCの行き先が決まりませんでした。その間にBTCの価格は押収後に大きく上昇し、2026年10月13日に英紙Financial Timesが報じた評価額では約50億ドルに達しました。これはCPSが公表した約8億ドルの被害額を大きく上回る金額です。

警察が押収したBTCは、誰に返されるのか

英国の検察当局は、英国の「2002年犯罪収益法」に基づき、押収した約61,000BTCを犯罪収益として回収するための裁判を進めています。英国側の回収が認められれば、BTCを売却するなどして資金に換えることも可能になります。その資金を被害者への補償にどれだけ充て、残りをどう扱うかも、この事件の大きな争点です。

一方、中国の詐欺被害者の一部は「そのBTCは、もともと自分たちが騙し取られたお金で購入されたものだ」として、BTCそのものへの権利を主張しています。

英国の2002年犯罪収益法281条には、犯罪によって失った財産や、それに由来する資産について、被害者の権利などの条件が認められた場合、国の回収対象から外す仕組みがあります。被害者の一部は、この規定に基づいてBTCへの権利を主張しています。

例えば、詐欺で100万円を失い、犯人がそのお金で購入したBTCが1,000万円に値上がりしたとします。元の100万円の返金を求める場合と、値上がりしたBTCそのものに権利を主張する場合では、取り戻せる資産の価値が大きく変わる可能性があります。

ただし、今回の被害者たちが購入したのはBTCではありません。中国で支払った人民元が、犯人の手によってBTCに交換されています。そのBTCにまで被害者の権利が及ぶのか。ここが裁判の重要な争点になっています。

英国の裁判所が、中国法でBTCの権利を判断する

英国の法律に基づいて進められているBTCの回収手続きで、問題になったのが「中国の被害者がBTCに権利を持つかどうかを、どこの国の法律で判断するのか」という点です。

被害者側は英国法、または英国法と中国法を組み合わせて判断するよう求めました。一方、英国の検察当局は中国法を適用すべきだと主張していました。

2026年10月12日、英国高等裁判所は中国法を適用することを決めました。
裁判所が重視したのは、投資の勧誘や契約、人民元の支払い、集めた資金をBTCに交換するまでの取引が、いずれも中国で行われていたことです。BTCを管理するための鍵が英国に移され、英国警察が押収したからといって、そのBTCに対する権利まで英国法で判断する理由にはならないとしたのです。

ただし、今回決まったのは、被害者の権利を判断するために使う法律だけです。今後、中国法に基づいて被害者がBTCにどこまで権利を持つのかが審理されます。Financial Timesによると、被害者側の弁護士はこの判断を不服として争う意向を示しています。

被害者の権利が認められれば、その範囲のBTCが返還につながる可能性があります。認められなかった部分については、英国側による回収や被害者への補償、残った資産の扱いが問題になります。

被害者の一部は「元の損失だけの補償」に反対

英国側は2025年、中国の詐欺被害者に補償金を支払う制度を提案しました。押収されたBTCに自分の権利があると証明できない人にも、被害を補償するための案です。しかし、一部の被害者は、詐欺で失った金額だけを返されても納得できないと主張しています。

犯人が被害金の一部で購入したBTCは、その後、大幅に値上がりしました。元の損失額だけが補償されるのであれば、BTCの値上がり分は被害者に渡らず、英国側に残る可能性があります。

2026年3月、英紙Financial Timesは、中国の既存の救済制度を使って補償する案に、被害者の一部が異議を唱えたと報じました。

一方、英国の検察側は、裁判に参加した一部の被害者や訴訟費用を提供した第三者が、実際の損失を大きく超える資産を受け取る可能性を指摘しています。裁判に参加した一部の被害者や、訴訟費用を提供した第三者が、実際の損失を大きく超える資産を受け取る可能性があるためです。

被害者に元の損失額を返すのか、それとも値上がりしたBTCへの権利を認めるのか。誰がどれだけの資産を受け取るのかによって、英国側に残るBTCの価値も変わってきます。

中国の詐欺被害金が、英国の歳入に変わる条件

今回の裁判が注目される理由は、詐欺による被害額よりも、英国が押収したBTCの価値の方がはるかに大きくなっていることです。

中国の被害者にBTCそのものへの権利が認められれば、値上がりしたBTCの一部が返還される可能性があります。しかし、その権利が認められず、元の被害額を基準に補償することになれば、補償後も巨額の資産が残る可能性があります。

こうした巨額の暗号資産をめぐる事件は、英国だけで起きているわけではありません。2025年10月、米司法省はカンボジアを拠点とする国際的な投資詐欺事件に関連して、約12万7,000BTC(当時約150億ドル)の没収を求める手続きを開始しました。世界各地に被害者が存在し、別の国の捜査当局が巨額の暗号資産を確保する事件が現実に起きています。

国境を越えた暗号資産犯罪が発生したとき、どこの国の法律を使い、誰の財産として扱うのか。さらに、押収したBTCが値上がりし、元の被害額を大きく上回った場合、その増えた価値は誰のものになるのか。

今回の裁判は、今後も起こり得る国際的な暗号資産の押収と被害者救済を考えるうえで、重要な判断の一つとなるかもしれません。


参考資料

  1. 英国高等裁判所:Director of Public Prosecutions v Zhimin Qian & Anor(2026年10月12日判決)

  2. 英国検察局:Two people imprisoned for their key roles in a largescale money laundering case(2025年11月11日)

  3. ロンドン警視庁:Two people convicted following world's largest crypto seizure(2025年9月29日)

  4. Financial Times:UK chances of keeping £3.8bn bitcoin haul rise after High Court ruling(2026年10月13日)

  5. Financial Times:UK proposes compensation scheme for victims of China bitcoin fraud(2025年)

  6. Financial Times:被害者側の補償案への異議を報じた記事(2026年3月)

  7. Cointelegraph:Chinese fraud victims challenge UK redress plan for 61,000 seized Bitcoin(2026年3月12日)

※本記事は公開情報をもとに暗号資産関連の事件と制度を解説した一般的な情報提供であり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではありません。資産評価額は各資料の公表時点に基づきます。


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