時価総額でも知名度でも、ビットコインは暗号資産市場の中心にいます。
S&P Dow Jones IndicesとPantera Capitalによる「S&P Pantera Digital Asset Index」は2026年7月20日にローンチされ、翌21日に正式発表されました。構成銘柄は18で、開始時の上位5銘柄はETH、BNB、SOL、TRX、HYPEです。
しかしそこにビットコインの名前はありませんでした。
なぜ最大の暗号資産であるビットコインが外れたのか。S&Pがこれまで作ってきた暗号資産指数と今回の採用基準をたどると、その理由は手数料の行き先にあります。
ビットコインがない指数は、今回が初めてではない
S&Pが暗号資産指数を手がけるのは今回が初めてではありません。
2021年5月にはS&P Bitcoin Index、S&P Ethereum Index、ビットコインとETHで構成するS&P Cryptocurrency MegaCap Indexを開始しました。同年7月には、240以上の暗号資産を対象とするS&P Cryptocurrency Broad Digital Market Indexも立ち上げています。
ビットコインを含まない指数もすでにあります。2025年12月には、Broad Digital Asset Indexからビットコインを除いた「S&P Cryptocurrency BDA Ex-Bitcoin Index」が始まりました。ビットコインを除いた暗号資産市場の値動きを追うための指数です。
そのため今回の指数の新しさは「S&Pがビットコインを外したこと」ではありません。時価総額からビットコインを引いたのではなく、新たな条件で銘柄を選んだ結果として採用されませんでした。その条件が、プロトコル収益です。
今回の指数は、収益で銘柄を選ぶ
S&P Pantera Digital Asset Indexは、時価総額の大きい暗号資産をそのまま並べた指数ではありません。幅広い暗号資産を対象とするS&P Cryptocurrency Broad Digital Asset Indexを母集団に、プロトコル収益を生んでいる銘柄を選びます。
対象になるには、Artemisで収益データを確認でき、直近2四半期の合計収益がプラスであることが必要です。新規採用銘柄には5億ドル超の時価総額や流動性などの基準もあり、ミームコインや放棄されたと判断されるコインは除外されます。
条件を満たした銘柄は、直近2四半期の収益額が大きい順に並べられます。その中から、候補全体が生んだ収益の99%をカバーするまで採用する仕組みです。採用の入口になるのは、価格や知名度ではなく、利用から継続的な収益が生まれているかどうかです。
ただし、指数に採用された後の構成比率は収益額では決まりません。比率は調整後時価総額を基準に計算され、最大銘柄は35%、その他は原則20%が上限です。
この指数は、収益で対象を絞り、その後に時価総額で重みをつける二段構えです。Broad Digital Asset Indexが暗号資産市場全体の動きを追うのに対し、今回はその中からプロトコル収益を生む銘柄だけを切り出しています。
ビットコインにも手数料はあるが、収益と見なされない
ビットコインでは、送金する際に取引手数料が発生します。ただし、その手数料はビットコイン保有者ではなく、取引をブロックに取り込んだマイナーへ支払われます。
今回の指数が参照するArtemisの収益は、利用者が支払った手数料の総額ではありません。プロトコルが得た収入のうち、DAOのトレジャリーへの蓄積、トークンのバーンや買い戻し、保有者への分配などを通じて、トークン側に残る価値を対象にしています。運営チームや財団だけが受け取る収入や、トークンの新規発行による報酬は含まれません。
ビットコインの取引手数料には、保有者への分配や買い戻し、バーンに回る経路がありません。そのためビットコインは広く利用され、手数料も発生しているものの、Artemisが定義する収益には該当しません。
Ethereumでは、手数料の一部がバーンされ、優先手数料はETHをステークしたバリデーターへ渡ります。Artemisは、こうしたバーンや「トークンを保有して参加する主体」への手数料分配を収益に含めます。一方、ビットコインのマイナーは計算資源を提供して手数料を受け取りますが、BTCを保有すること自体は条件ではありません。同じネットワーク手数料でも、トークン保有との結びつきが異なります。
ビットコインが外れた理由は、利用されていないからではありません。利用料が発生しても、それがBTC保有者へ帰属する設計ではないためです。
S&Pが作った機関投資家向けの比較基準
プロトコルの手数料や収益を使って暗号資産を分析する手法は、以前からありました。DeFiやレイヤー1の分析では、収益、利用者数、取引量、TVLなどのオンチェーンデータが使われています。Artemisも、チェーンやプロトコルをこうした指標で比較するサービスを提供してきました。
今回変わったのは、その中の一つである収益をS&Pが指数の採用ルールへ組み込み、四半期ごとに見直すベンチマークにしたことです。S&Pは新指数を、機関投資家が暗号資産へ配分する際の比較対象と、将来の指数連動商品の土台として位置づけています。
指数はETFやファンドではないため、発表と同時に18銘柄へ資金が流れるわけではありません。それでも、データ分析の現場で使われていたプロトコル収益が、運用会社が成績を比べたり、指数連動商品を設計したりするための共通ルールに入った点が、今回の変化です。
プロトコル収益は、企業の利益ではない
収益という言葉が入ると、株式の売上や利益に近いものだと思いやすくなります。しかし、Artemisの収益は運営費や開発費などを差し引く前の数字で、トークンの新規発行による報酬も含みません。企業の純利益とは違います。
価値の届き方も銘柄ごとに異なります。バーンなら供給量の減少を通じて保有者全体に影響しますが、ステーキング参加者への分配は参加していない保有者には届きません。DAOの金庫に収益が入っても、それを保有者へ分配するとは限りません。同じRevenueでも、通常の保有者まで価値が届く場合と、積極的に参加した保有者だけが受け取る場合があります。
S&Pの方法論にも、プロトコル収益は経済活動を測る指標であり、投資家のリターンや将来のキャッシュフローを意味しないとあります。採用は利用から収益が生まれていることを示しますが、保有だけで収益を受け取れるという保証ではありません。
「使われる資産」で評価される時代へ?
プロトコル収益は以前から、ブロックチェーンやDeFiの利用状況を比べる数字として使われてきました。今回新しかったのは、その数字がS&Pの指数採用条件になったことです。オンチェーン分析で使われてきた「利用料がどこに残るか」という視点が、機関投資家向けベンチマークの選別ルールへ入りました。
ただし、この指数が測っているのは単なる利用量ではありません。ネットワークが使われ、手数料が発生し、その一部がトークン保有者やDAOへ帰属するところまでが対象です。ビットコインのように利用も手数料も大きくても、その経路がなければ採用条件を満たしません。
タイトルの「使われる資産で評価される時代へ」という問いに、より正確に答えるなら、「使われた結果、価値がトークンに残る資産」を測る指数が一つ増えた、となります。収益は採用銘柄を絞る条件であり、構成比率は時価総額で決まります。採用されたトークンを持てば収益が分配されるわけでもありません。
今回の18銘柄は、暗号資産の序列を塗り替える一覧ではありません。時価総額では見えにくかった「利用料の行き先」を、S&Pが指数のルールとして切り出したものです。ビットコインがないことより、何を収益と数えた結果として外れたのかに、この指数の性格が表れています。
※本記事は、公開情報をもとに暗号資産・ブロックチェーン関連ニュースを整理した一般的な情報提供であり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではありません。