TORICO主催のオンラインイベント「Ethereum Shift 2026」。
第1部のセッションには、コインチェック井坂友之社長、TORICO安藤拓郎社長、同社トレジャリー戦略アドバイザーの國光宏尚氏が登壇。「企業は暗号資産を持つべきか」をテーマに、トレジャリー企業(DAT)の現状と展望が議論された。
井坂氏は、法人からの問い合わせが昨今急増していることを明かした。データ上の変化を受け、従来のB2C向けコインチェックとは別に、2025年3月頃にB2B向けサービス「コインチェックプライム」を立ち上げたという。大口OTC取引や法人向けステーキング、カストディソリューションなどを提供しており、需要の伸びは大きかったとのこと。
問い合わせは暗号資産に精通した企業に限らない。地方で堅実な事業基盤を持つ企業からも「金を買うようにデジタルゴールドとしてのビットコインに興味がある」といった相談が増えているという。背景について國光氏は、円安とインフレにより「円を持っているだけでは資産が減る」という危機感の広がりを指摘した。
ビットコインとイーサリアムの棲み分けについて、井坂氏はビットコインを「デジタルゴールド」、イーサリアムを「デジタルオイル」との従来の認識を引用。國光氏は、イーサリアムは保有するだけでなくステーキング報酬で年利約3%の利回りが得られるほか、DeFi運用で5〜10%のイールドも視野に入ると説明。これを「稼ぐトレジャリー」と位置づけ、ビットコインのトレジャリーでは差別化が難しい一方、イーサリアムは運用手法が企業の競争力に直結すると指摘した。
TORICOの安藤氏は、2024年7月の暗号資産事業開始当初はビットコインの積み増しを方針としていたが、その後イーサリアムに切り替えた経緯を語った。運用で資産を増やせる点に加え、アニメ・漫画などのIP事業との将来的なシナジーが決め手になったという。コインチェック側もグループ会社の3iQやNFT社の運用商品を通じ、リスク許容度に応じた提案が可能だとした。
井坂氏は、約2年後の2028年頃に暗号資産の税制改正とETF解禁が見込まれるとの認識を示した。北米初の暗号資産ETFを実現したカナダの3iQがコインチェックグループに合流しており、「世界でETFがどう運用・保管されているかを知った状態で参入できるのが強み」と述べた。
「ETFが解禁されたとき、ETFではなくトレジャリー企業の株を買う理由は何か」という論点も議論された。ETFが資産への間接的なエクスポージャーにとどまるのに対し、トレジャリー企業は運用戦略や事業展開を通じて独自の付加価値を生み出せる点が異なる。井坂氏は「選択肢はお客さんに多い方がいい」と述べ、米国でもETF登場後に現物市場が縮小するどころか「両方が伸びている」と指摘。ETFと現物、株式投資が共存しマーケット全体が拡大する方向性が望ましいとの見解を示した。
暗号資産ユーザーの拡大策として、メルカリ(メルコイン)との連携が挙がった。井坂氏は「コアな人たちが伸ばしてきたマーケットがさらに広がるには、大手のユーザーを抱えるプレイヤーの中に入っていく必要がある」と語った。
米国では株式売買アプリRobinhoodの中に予測市場Kalshiがシームレスに統合され、ユーザーが株を買うような感覚で予測市場に参加できる仕組みが実現。Kalshiの出来高の半分以上がRobinhood経由となるなど、既存プラットフォームへの組み込みが加速している事例も紹介され、予測市場の領域で日本が米国に置いていかれることへの危機感も共有された。
米国との比較では、スピード感の差への危機感も率直に語られた。井坂氏は、米国ではコインベースの機関投資家向け取引量やカストディ事業の収益が大きな規模に達している一方、日本の機関投資家の参入はまだ限定的だと認めた。「アメリカのダイナミズムに憧れる一方で、日本の現実にどう落とし込むか」が重要だと述べた。
一方で、日本ならではの強みも指摘された。國光氏は、米国ではファンマーケティングとトレジャリー企業の結びつきがそこまで進んでいない点に着目。日本には株主優待という独自の文化があり、個人投資家が投資信託ではなく個別銘柄を選ぶ傾向が強い背景にもなっている。この仕組みを活用すれば、トレジャリー企業の株主をファンとして巻き込む日本独自のモデルを構築できるとの見方を示した。
伝統金融との融合も議論された。井坂氏は「カストディ一つとっても従来の信託銀行とは全く異なる」と課題を認めつつ、「以前と違い、伝統金融企業がまず話を聞きたいという姿勢になっている」と変化を語った。