暗号資産(仮想通貨)イーサリアム( ETH )は、日本時間12月4日朝にアップグレード「フサカ(Fusaka)」を実施しました。フサカでは、ブロックチェーンとしての技術やユーザー体験(UX)の向上に寄与する複数のアップグレードが行われています。
本記事では技術の詳細は最低限にとどめ、主にフサカによってどのようなメリットが生まれ、どんな主体が恩恵を受けるのかをまとめます。
読者がフサカの重要点を理解し、その影響を考察する手がかりになることを目指します。
まずは、フサカの内容を簡単に振り返ります。イーサリアム財団が事前に公開した発表によれば、フサカでアップグレードした内容は主に「レイヤー1(L1)の拡張性」「UX」「ブロブの拡張性」の3つに分類することができます。
特に3つ目のブロブとは、データの一時的な記憶領域のこと。具体的にはL2のブロックチェーンが、L1であるイーサリアムに提出するデータの記憶領域を指します。
フサカでは、このブロブに関するアップグレードである「PeerDAS(EIP-7594:Peer Data Availability Sampling)」の導入が主要項目でした。PeerDASとは、バリデータが全てのデータをダウンロードしなくても良いようにするための技術や仕組みのことです。
ブロブに対して導入され、データ可用性の効率とネットワークの拡張性を向上させることや、ノードの負担を軽減させることが期待されています。
また、上述した3つの分類の中のL1(イーサリアム)の拡張性には、ブロックのデフォルトのガスリミットの引き上げ(EIP-7935)やトランザクションのガスリミット上限の導入(EIP-7825)などが含まれます。
他にもUX向上策として、認証プロセスで「Apple Secure Enclave」「Android Keystore」などをサポートして多くの人に馴染みあるハードウェアに対応できるようにアップグレードしました(EIP-7951)。このアップグレードは、ブロックチェーン普及のための摩擦を軽減することが期待されています。
以上、もちろんこれで全てではありませんが、これらが重要と指摘する声が多いアップグレードです。
続いて本節では、フサカのアップグレードには主にどんなメリットがあり、誰がその恩恵を享受するのかを深掘りしていきます。
まずは、フサカの主要項目だったPeerDASの導入です。上述した通り、PeerDASはブロブに対して導入され、バリデータが全てのデータをダウンロードしなくても良いようになりました。
データ可用性の効率やネットワークの拡張性を向上させることや、ノードの負担軽減やシステム要件の低下が見込まれることから、主に以下のような主体にメリットがあります。
また、バリデータやステーカー、ノードなど、ネットワークへの参加要件が下がることは分散化を促進し、間接的にネットワーク全体にメリットをもたらす可能性もあります。
ブロブの拡張性向上はL2手数料を下げる効果があり、L2上のDeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)などのプラットフォームを安価に使えるようになります。L2手数料の低下は、主に以下のような主体にメリットがあります。
ブロックのデフォルトのガスリミットの引き上げは、イーサリアムの実行容量の増加につながります。これは、主に以下のような主体にメリットがあります。
トランザクションのガスリミット上限の導入は、各トランザクションによる過度なガス消費を防ぎます。このアップグレードは、大量のデータを送信するDoS(Denial of Service attack)攻撃の防御にもつながります。これはネットワーク参加者全体にメリットがあります。
上述した認証プロセスにおけるUX向上策(EIP-7951:secp256r1楕円曲線のネイティブサポート)では、一般的な消費者が馴染みのあるアップルやグーグルの端末などによる認証にイーサリアムが対応できるようになります。
具体的には、イーサリアムのアプリを使用する際に指紋認証やFace IDでデジタル署名ができるようになります。このアップグレードは主に以下のような主体にメリットがあります。
将来、量子計算機の発展によって既存の暗号方式が破られる可能性が指摘されており、量子計算に耐性を持つ暗号方式や証明方式の研究が進められています。その中で、正当性を効率よく証明できる ゼロ知識証明 (ZK)は、量子耐性を備えたシステム設計において重要な技術の一つとされています。
フサカで導入された新しい命令(EIP-7939:Count Leading Zeros Opcode)は、こうしたZK証明で多用されるビット演算を効率化するもので、ZK証明の生成や検証にかかるオンチェーンコストの削減に寄与します。
これにより、将来的に量子耐性を意識した暗号技術や証明方式をスマートコントラクト上で実装しやすくする基盤が整うと期待されています。
続いて、本節ではフサカに対する、企業や関係者の見解や評価を紹介します。
まず、仮想通貨運用企業Bitwiseが投資家向けにフサカのレポートを公開しています。レポートでは、イーサリアムが拡張性に特化したアップグレードを1年間に2回実施するのは今回が初めてであると指摘しました。イーサリアムは2025年、5月に「ペクトラ」のアップグレードも行っています。
また、同社はフサカについて、取引手数料の一部をバーンする仕組みを導入したアップグレード以降、最も価値を獲得できる改良であると評価しました。
アップグレードがETH価格へ与える影響は過去のデータから見て大きくはないとしつつも、イーサリアムは機関向けのオンチェーン金融プラットフォームとしてのポジションを強化し続けているとの見方を示しています。
また、データプロバイダー「CoinGecko」がフサカに関するレポートを公開しています。
その際、フサカによってL2のトランザクションコストが40%〜60%下がったり、バリデータがダウンロードする必要のあるデータ量が約85%減少したり、L2ネットワークがトランザクションデータを提出するスペースが3.5倍になったりすると試算しました。
他にも、L2全体が1秒間に処理するトランザクション数が約1万2,000から10万トランザクションに増え、理論上はカード大手Visaの秒間平均6万5,000トランザクションを超えられるようになるとも述べています。
その上で「フサカはイーサリアムを、L2の活動をサポートするブロックチェーンから、1秒間に数十万のトランザクションを処理するソリューションからなる巨大なエコシステムを維持できるブロックチェーンに変えた」と評価しました。
実際に恩恵を受けるL2「インク(Ink)」を展開するクラーケンで、オンチェーン部門のトップを務めるカルビン・レイオン氏は「The Block」に対し「フサカは大きな解放である」と 評価 しました。
「PeerDASの導入によるブロブスペースの拡張、L2コストの低下、データ可用性の改善は、開発者がUXを妥協することなくプロダクトを速く提供できるようになることを意味する」とコメントしています。
そして、「イーサリアムが複雑さを増すことなく強固になることは、拡張性向上のあるべき姿である」と述べました。
以上が、フサカのメリットに関する考察です。
イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏はフサカが実施された後、研究者や開発者を労いつつ、イーサリアムにはまだ課題が残されていることを指摘。また、PeerDASを2年かけて完成度を高めていく計画であることも説明しました。
これは、まだイーサリアムの技術やエコシステムが発展途上であることを示しており、今後も開発が続きます。
次は「グラムステルダム(Glamsterdam)」というアップグレードが行われる予定です。内容はこれから議論されていきますが、本記事執筆時点における主要項目は2つあり、1つ目はトランザクションの並列処理に寄与する「ブロックレベルアクセスリスト(BALs)の導入(EIP-7928)」です。
もう1つはイーサリアムのブロックを合意部分と実行部分に分ける仕組みを導入する「提案者とビルダーの分離(EIP-7732)」です。
現時点では、グラムステルダムは2026年の実施を予定しています。
本記事は企業の出資による記事広告やアフィリエイト広告を含みます。CoinPostは掲載内容や製品の品質や性能を保証するものではありません。サービス利用やお問い合わせは、直接サービス提供会社へご連絡ください。CoinPostは、本記事の内容やそれを参考にした行動による損害や損失について、直接的・間接的な責任を負いません。ユーザーの皆さまが本稿に関連した行動をとる際には、ご自身で調査し、自己責任で行ってください。


